The Sovereign:一番つらかった年に生まれたカーディガン、今なら無料
The Sovereign は、私が初めて作ったカーディガンです。そのころの私は、まだカーディガンの編み方を知りませんでした。人生でいちばんつらかった年に、この一着を編みながら覚えたのです。
入退院をくり返した1年
その年、私は入退院をくり返していました。手術は3回。そういうときには、独特の「待つ時間」があります。手術の前に待ち、回復のあいだに待ち、自分らしさが戻ってくるのを待つ。手と頭を同時に置いておける場所が必要でした。それが、編み物だったのです。
12mmの編み針で編む極太ウールは、ゆっくりです。1段に数秒ではなく数分かかり、目のひとつひとつが落ち着くのを感じます。そのゆっくりさこそが大事でした。あれほど太い針を持ち、一段一段をていねいに編むことで、生と死、そして自分の命の終わりについての気持ちを置いておく場所ができました。ほかにはどこにも置き場がなかった気持ちです。私はセーターを飾っていたのではありません。1年を、1段ずつ乗り越えていたのです。
ビジネスを始めようとしていたわけでもありません。ただ、その1年を乗り越えようとしていただけです。でも、Gigante Knits が始まったのはその年でした。このカーディガンは、ブランドをよく見せるために後からつけた素敵な誕生秘話ではありません。本当に起きたことそのものです。
ひとりの人物になったカーディガン
編み上がるころには、このカーディガンには自分の個性がありました。クリームのスペックルの身頃に、深い赤の縁取り。とじ目はあえて表側からすくいとじにして、外に見せています。とじ目そのものが飾りで、隠すものではないからです。背中には、裾から首まで手で編んだクロスがはしごのように並んでいます。私はこれを Sovereign X と呼んでいます。袖口にも独自のはしご模様があり、間隔は不ぞろい。小さな、意図した不完全さです。そこにあるのが似合っていたので、直そうとは思いませんでした。
スーパーやパブで、どこで手に入れたのかと呼び止められます。何年たった今でもです。The Sovereign という名前は、何人もの見知らぬ人が、こちらから何も聞いていないのに、これを着ていると王様みたいだと言ってくれたからです。ほめ言葉を期待していたわけではありません。これを見た人が、自然とそう言うのです。
ビジネスを始めるきっかけになった一着で、今でもシリアル売り場で呼び止められるのはこの一着です。
無料でお渡しする理由
この編み図を商品にすることは、ずっと考えていました。でも、どうしても売る気になれませんでした。あの1年とあまりに深く結びついていて、ほかの編み図のように値段をつけられないのです。とはいえ、自分だけのものにしておくのも違う気がしました。コメントやメール、ときにはお客さまの写真を通して、このデザインはどこから生まれたのかと、たくさんの方に聞かれてきたのですから。
だから、売るのではなく、お渡しすることにしました。編み図を買ってくださった方、キットを注文してくださった方、ニュースレターに登録してくださった方、そして友だちに私たちのことを話してくださった方。すべての方への、私なりのありがとうです。これまでに何かを買っている必要はありません。欲しいと思ってくれれば、それで十分です。
これは一度きりの編み図です。ダウンロードできるのは、私が編んだとおりの完成した編み図そのもの。今後の更新も、手直しの予定もありません。本物を、無料で。
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